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しかし、均衡概念にも使い道はある。
事実、われわれがこれまでみてきたように、この概念の助けを借りることなしにフィードバック・メカニズムに多くの光を当てて解明するのは難しい。
均衡はファンダメンタルズのように、創造力に富むが誤った推論である。
私はいわゆるファンダメンタルズが参加者のバイアスによって影響を受けうると主張したものの、結局、ファンダメンタルズを導入しなければ、参加者のバイアスについてわれわれが語れるものは知れたものだった。
コングロマリット・ブームの株価表は、一株当たり収益(すなわち「ファンダメンタルズ」)を表示する線がなければ、たとえその一株当たり収益が市場価格の影響を受けているにせよ、あまり意味をなさなかったろう。
では、均衡とはなにか。
私は均衡を期待と結果とが一致する状態であると定義する。
均衡は金融市場では達成不可能であるが、現在いきわたっているトレンドが均衡に向かっているか、あるいは離れつつあるかを確定するだけなら可能であろう。
それだけでもわかればわれわれの理解は大きく前進したことになる。
もしわれわれが現在いきわたっているトレンドと、期待と結果の間の開きをはっきり識別して断定できれば、いまのトレンドが均衡に向かっているか、または離れているか予言することができるかもしれない。
それを行うのは容易でなく、科学的に行うのは不可能であるが、私はポパーの科学的手法の理論を応用するのが有用であることを発見している。
私のやり方は、私の期待を基礎にある仮説(要するに命題)を設定し、それを将来の事態の推移に照らしてテストすることである。
私が活発に資産を運用していた当時のことだが、私は最初は自己強化の方向に動くようにみえながら、最後には自滅の道をたどるプロセスのにおいをかぎつけたとき、ものすごく興奮したものだった。
私の口には唾がわき、まるでパブロフの犬にでもなったようだった。
エコノミストたちが最近一回の景気後退を十回も予言してはばからなかったと言われているのとまったく同じように、私もブーム・バスト(暴騰・暴落)の連続性について同じことをやらかした。
すべての状況が相互作用的な仮説の形成に向いているわけではないから、たいていの場合私は間違っていた。
しかし、私が正しかったわずかの場合には努力が報われることになった。
なぜなら、そのときに利益を生む潜在可能性はほぼ均衡に近い状態のときよりずっと大きかったからである。
これが私のファンド・マネジャーとしてのやり方だった。
それには想像力と直感力、また容赦ない批判的な態度が必要だった。
私はある特別な例を『金融の錬金術』に書いておいた。
一九七○年代初めの不動産投資信託(REITS)のケースで、このケースは多くの点で注目に値するものだった。
私はあるブーム・バストのプロセスを予測した株式調査リポートを発表したが、そのシナリオはまるでギリシャの演劇のように、まさに予告した通りに展開した。
私自身、大口の投資でその主役となっていたので、このシナリオの値上がりと値下がりの両方の局面でフルに利益を得た。
ほとんどのREITSは倒産して終わるだろうという私自身の分析に納得して、私は株価が下落するのにつれてその株の空売りを続け、売りの持ち高でついに一○○%以上の儲けとなった。
まさに不可能とも思える離れわざであ側私の仮説がだった場合でも、私はしばしば利益をあげてから手を引くことができた。
それと価いうのも、私の批判的な態度が、他の人々より早めに自分の仮説の欠陥を見抜かせてくれたからで脳ある。
私はにおいをかぎつけると、まず投資、そのあとで調査というルールに従った。
仮説がもつともらしく思われると、通常、そのときが私には利益をあげて手を引くチャンスだった。
なぜなら、容易にそれを信じようとしていた人たちがいたからだ。
仮説にある欠陥を認めると私はほっと金した。
すべての仮説は本来欠陥があるものだと私は固く信じていたので、潜在的な弱点のすべてが樟わかっていないと警戒をおこたらない姿勢を崩さなかった。
自分自身の経験にもとづいて、私は株式市場についてちょっと面白い仮説をたてた。
つまり、株あった。
式市場は私のやり方とほとんど同じように動いて、ポパーの科学的方法論の翻案をそのまま実演する、というものだが、違いは市場はそうとは知らないことにある。
換言すれば、市場はある仮説を採用しテストするのだが、失敗すると普通は失敗する別の仮説を試みる。
それが市場の上下動を生み出すのである。
それはいろいろなレベルの重要度で発生し、そこから生まれるパターンはきわめてマンデルブローのフラクタル図形に似て、反復的である(注2)。
市場に採用される仮説はしばしば浅薄なものである。
それはある会社、グループ、または市場全体の価格が上がるべきだとか、下がるべきだと言うだけのことにすぎないかもしれない。
こういったケースで、市場がなぜある特定の仮説を採用したかを参加者が考えついたときには、もう手遅れかもしれない。
仮説はすでに放棄されているからだ。
市場のパターンを調べて上下動を予測する方がずっとましである。
それがテクニカル・アナリストのやり方だ。
私はこれに特に興味をもつことはなかった。
浅薄ではない、つまり相互作用性をもつ仮説を待つ方がいいと思ったからだ。
もちろん、市場は私がこのような仮説を創りだすことができる前にそれを演じ始めているのだが、しかしそれでも私は市場に先んじてその組み立てを終えることができた。
このように歴史的で相互作用性をもつ仮説は断続的にしか姿を見せず、その間には何もしない方がましなような長い休眠期間が市場参加者はいまや相互作用性のもつ潜在的な力に気がついてきたから、私がいまなお、より大局的かつ歴史的な仮説を認識するうえで他より競争力をもっているかどうかは疑問である。
たとえば、ファンダメンタルズから離れてテクニカルな諸要因の考慮に重点を移す明らかな変化がみてとれる。
参加者のファンダメンタルズの重要性への信念が薄らぐにつれて、テクニカルな分析がより重要になってくる。
このことは市場の安定性に多少のかかわりがあるが、それを考慮する前に私は、私の概念的枠組みでカギとなる役割を果たす、ある区別を導入しなければならない。
私は均衡に近い状態と均衡にほど遠い状態とを区別したい。
私はこれらの用語を、私のアプローチとある種の親近感があるカオス理論から借りてきた。
均衡に近い状態では、市場は平凡な仮説で運営され、そのため均衡から離れていく動きは、おそらく価格を動き始めたもとの場所に戻していくという、反対の動きを誘発することになろう。
こういった変動は水泳プールで揺れ動くさざなみ対照的に、もし相互作用性をもつ仮説の設定がうまくいくと、それは価格に影響するだけでなく、ファンダメンタルズにも影響する。
そして反転しても出発点に戻るような結果にはなるまい。
それは、大津波とか雪崩にもっと似ている。
完全な形のブーム・バストの連続性は均衡からほど遠い領域にまで浸透していく。
それが連続性に歴史的な意義を与えるゆえんである。
ならばその境界線はどこにあるのか。
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